バレーボールの中継で「オポジット」という専門用語が出てきます。20年以上前は浸透していない言葉でしたが、最近の中継では普通に使われるようになりました。
結論、オポジットは「セッター対角」の位置を示す言葉です。
しかし「セッター対角」という意味だけ知っていても、オポジットを理解したとは言えません。
この記事を読むとオポジットについて詳しく知ることができますし、バレーボールをもっと深く理解できるようになります。バレーボールを見るのも楽しくなります。
オポジットというポジションの意味と役割を理解して、よりバレーボールを楽しみましょう。
オポジットは「セッター対角」のポジション
バレーボール用語の「オポジット」は、
「セッターの対角のポジション」
です。略すて「OP」と表記されることもあります。
ポジション | 表記 |
---|---|
ウイングスパイカー アウトサイドヒッター | WS OH |
ミドルブロッカー | MB |
オポジット | OP |
セッター | S |
リベロ | L |
でも、これだけ覚えても「ライト」や「スーパーエース」、「ユーティリティ」「ユニバーサル」という用語との違いを説明しないとオポジットは理解できません。
ここからオポジットについて考えています。
オポジットは「位置」を示す言葉
前述したとおり、オポジットはセッター対角の位置のこと。

ローテーション制の6人制バレーボールでは、対角の選手は常に同じです。常にセッターの対角の位置にいる選手、それがオポジットになります。
左利きの選手? → 利き手は関係がない
よくある質問として「左聞きの選手?」と聞かれることも多いです。答えは「利き手は関係がない」です。右利きでも左利きでもセッター対策はオポジットになります。
男子日本代表では左利きの山本選手・清水選手・西田選手などが多いです。マンガ「ハイキュー」でも左利きのウシワカがオポジットとして登場する。
ハイレベルなチームでは左利きのエースがいるケースが増えてきます。そのためオポジットは左利きのエースのイメージがついてしまっていると思いますが、オポジット本来に意味ではないことは抑えておくポイントです。
ライトとは違う
「オポジットはライトであることが多い」これはその通り。しかしライトとはイコールではありません。
ライトは主にライト側から攻撃する役割のポジションです。”主に”と書いたのは、ライトのポジションがライト以外から攻撃するケースもあるためです。
対してオポジットは「セッターの対角」です。つまり、「セッターがライトポジションである場合のみ、オポジットはライトになる」ということになります。
例えばセンターセッター、あるいはレフト側がセッター(見たことはないけれど)となる場合は、オポジットはセンターかレフトプレイヤーとなります。
オポジットはあくまでもセッター対角という「位置」を示すもの。ライトとは違うののです。
スーパーエースやアウトサイドヒッターとも違う
スーパーエースという言葉は「数多くアタックをし数多くの点を稼ぎだすレフトプレイヤー(エース)よりも、さらに打数も得点も多いプレイヤー」ということで、エースを超えるプレイヤーを形容するために生まれた言葉です。
またアウトサイドヒッターは「アウトサイドからアタックするプレイヤー」で、こちらも意味合いが違います。
スーパーエースという言葉は、戦術の進化と密接に関わっています。
セッターが前衛の時には前衛のアタッカーが2枚になってしまいます。つまり攻撃力が落ちます。その弱点を補うのがセッター対角のスーパーエースです。
セッター対角(ライト)にバックアタックが得意な選手を置くことで常に3枚以上のアタッカーがいる状況を作る、こうした意図があります。

「バックアタックが得意な選手」とは、ほとんどの場合チーム1のアタッカー。そのため、レフトエースを上回る「スーパーエース」という言葉になりました。
オポジットはセッター対角という「位置」を表す意味しかない。対してスーパーエースは「役割」です。
「オポジットの位置に、スーパーエースという役割のプレイヤーを置く戦術」これが正しい「スーパーエース」という言葉の使い方です。用語を覚えれば表現も変わってきます。
ユーティリティー、ユニバーサルとも違う
あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、「ユーティリティー」「ユニバーサル」という役割もあります。
ユーティリティーは便利な選手、ユニバーサルは万能な選手という意味。
使い分けが難しいが、ユーティリティーは「チームの弱点の穴埋めをする選手」という説明をすることが多いです。レセプションが苦手なチームには、レセプションが得意な選手を。ブロックが弱いチームには、ブロックが得意な選手。サーブ効果率が低いチームにはビッグサーバーを。
下記はレセプションとディグの弱いチームに入る、ユーティリティーのイメージです。

ユニバーサルはサーブ、アタック・ブロック・レセプション・ディグ、全てのプレーをそつなくこなす選手。

全般的なチーム力を底上げする選手、というイメージだ。
オポジットはレセプションに参加しない? → いいえ

オポジットはレセプションに参加しないの?
中継を見ているとコートの端にいることがあるよ。
ここまで読んでくれた方なら分かると思いますが、レセプション(サーブレシーブ)は戦術によります。
アタックに専念して参加しないケースもありますし、積極的に参加するケースもあります。日本の女子代表では、むしろオポジットのレシーブ力を重視したフォーメーションを組むこともありますね。
レセプションについては以下の記事で詳しく解説しています。
初級者~中級者ではあまり重視されないポジション
オポジットはレベルが上がるほど重要度が増すポジション。初級者の段階ではレフトプレイヤーがエースアタッカーとなることが多いです。これは右利きのプレイヤーが多く、レフト側からのアタックのほうが簡単だから。セットもレフト側のほうが上げやすいということもあります。
セッター対角が多いライトは、あまり打数が増えません。必然的にアタックが得意でない選手が入ることが多いです。中級者でも同様。
しかし、レベルが上がってくるとバックアタックは当たり前の攻撃となってきます。するとオポジットに誰を配置するかが重要になります。セッターが前衛のときにバックアタックが打てる選手が対角にいることで、どのローテーションでも3人以上のアタッカーが揃えられるからです。
男子日本代表のオポジット
日本代表ではどんな選手がオポジットを務めてきたのか、90年代からのオポジットの歴史をオリンピック区切りで見てみましょう。
1992 バルセロナ:中垣内祐一
1996 アトランタ:中垣内祐一
2000 北京:中垣内祐一
2004 アテネ:山本隆弘
2008 北京:清水邦広・山本隆弘
2012 ロンドン:清水邦広
2016 リオデジャネイロ:清水邦広
2021 東京:西田有志
※1996・2000・2004・2012・2016年はオリンピック不出場のため、最終予選の選手
トップレベルではいわゆる「スーパーエース型」の選手が配置されているのが分かりますね。チーム一の打数を誇り、バックアタックも苦としない選手ばかりです。
ハイキューで考察してみる
高校のバレーボール部を舞台としたマンガ、『ハイキュー』でオポジットの選手を考察。
烏野高校の澤村は、ユーティリティ
烏野高校はレシーブ力が低い。西谷という突出して優れたリベロはいるが、全体的なレシーブ力は決して高くないように描かれています。
そこでオポジットには澤村というレセプションが得意な選手を置いています。ユーティリティ的な選手です。
オポジットに澤村を置いて守備のバランスを保つチーム作りをしている、そんな起用方法となっています。
白鳥沢高校のウシワカは、スーパーエース
白鳥沢高校の牛島若利、通称ウシワカはスーパーエース。基本的にレセプションには参加せず、どんな状況でもアタックを打ち点を取るためのプレイヤーです。
もっとも、オポジットの位置にいるのは左利きだから、という理由もあります。セッターがライトの場合、対角もライト側で攻撃することが多くなります。左利きのプレイヤーはライト側からの攻撃が得意である場合が多いです。
とはいえ、ウシワカのプレースタイルはスーパーエースそのもの。圧倒的な打数と得点、他の追随を許さない攻撃力を誇ります。その攻撃力を活かすための選手起用をしているんですね。
オポジットでチーム事情を知る
オポジットはセッター対角であるため、他のポジションとは性質が異なります。レフト・センターは対角似たような役割のプレイヤーを配置するが、オポジットだけはセッターという全く役割の違う対角となります。
その分、起用法も多様。
初級者段階では、その特殊性から目立たない選手を配置し、目立たない役割となることが多いです。しかし上級者チームになると、その起用法はチームの戦術の肝となります。
そんなオポジットからチーム事情を推測することも、バレーボールの楽しみの一つ。各国・各チームのオポジットを見て、バレーの奥深さを味わってみてください。
コメント
今回バレーボールを勉強する事になり、
このページに辿り着きました。
勉強させていただきました。ありがとうございます。
1つ質問したいのですが、
グラフに”セット”という項目があります。
これは何を表すのでしょうか。教えていただきたいです。
他の項目に関しては、既存の知識と、こちらの解説で分かりました。
よろしくお願いいたします。
アナリストG様
コメントありがとうございます。
”セット”は、アタッカーへ供給するトス(パス)のことです。
セッターは「セットをする人」だから「セッター」です。
「トス」のほうが一般的かもしれませんが、トスは上へ投げるという意味合いが強く、トスする側が主体の言葉です。
サーブ権を決めるときの「コイントス」のトスも同じですね。
対して「セット」はアタッカーがアタックできる位置へボールを「セット」するという意味で、アタッカー主体の言葉です。
「トス」という言葉を使わず「セット」という言葉を使っているのは
・ボールを上へ投げるよりも、アタッカーに届けるという言葉のほうが適していること
・海外ではトスは(ほとんど)使わず、セットという言葉を使うこと
というのが理由です。
最近のバレーボール中継や雑誌でも「セット」という言葉が使われる機会が増えてきています。
これを機に覚えてみてください。