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分割可能な自分とは?分人とは?/「空白を満たしなさい」「私とは何か」(平野啓一郎)を読む

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この記事を書いている分人、わにきちです。

自分とは何?という中二病的な悩みを常に考えています。

小中学と何度か転校をしている私は、学校が変わる度に周りから浮いていることを実感していました。それが関係しているかどうか分かりませんが、「多重人格っぽい」と言われることが多かったです。真面目そうだけど実際はチョー不真面目なことやってたり、大人しそうに見えて意外とうるさかったり。

そんな言動が「多重人格っぽい」という印象に繋がっているんだろう、とボンヤリ私は考えていました。それ故に周りに理解されないことが多かったですが、それ自体は苦痛でもないし、むしろ心地良くもありました。

とはいえ、ずっと疑問には思っていたんです。「結局自分の本質はどこにあるの?」と。そんな思いをずっと抱えてきましたが、この小説を読んで、ちょっと違うのでは?と思うようになりました。

「空白を満たしなさい」 平野啓一郎

自殺した主人公が生き返る、というちょっとSFチックな始まり方をするこの小説。
「主人公はなぜ自殺したのか」というのが主題で、その原因を追究していく物語となっています。

読み進めていくと、いわゆる「暗い・黒い」という主人公の一面を見て「これが本当の主人公だ」と読者に思わせる。不思議なもので、他人から見るとネガディブな一面の方が「本当の姿」だと捉えられて、クローズアップされます。少年犯罪のニュースについての報道のあり方を見ても、それは分かるかと思います。

ただし、この考え方は「本当の自分優位」な考え方なんですね。

本当の自分 > 本当でない自分

しかし、この小説で示される概念は「本当の自分」というものではありませんでした。

本当の自分、という考え方への違和感

よく「あなたはあなただよ」とか「嫌な部分も含めてあなただよ」的な自分論を展開する人がいます。
言っていることは至極全うで、確かに私がやっていることは私以外にはありえないのですが、この考え方には違和感を感じていました。

なぜなら、「自分ではあるけど、明きからに違う自分」というものを感じていたから。

親と対峙している私、と、友人Nくんと対峙している私は明らかに違う。それを何故いっしょくたにしてしまうのか。
別にどちらかが仮面を被っているわけじゃない。そうしている、というより、そうなっている。
これは説明が難しいです。言語化することは半ばあきらめていました。

対人関係ごとの複数の自分は、すべて「本当の自分」である

たった一つの「本当の自分」など存在しない。裏返して言うならば、対人関係ごとに見せる複数の顔が、すべて「本当の自分」である。

人間は決して唯一無二の「(分割不可能な)個人 individual」ではない。複数の「(分割可能な)分人 dividual」である。

『わたしとは何か 「個人」から「分人」へ』からの抜粋です。この本で示される「分人」という考え方です。
あぁ、これだ、と思いました。唯一無二の個人ではなく、分割可能な分人。考えを言語化されることは大きな喜びでした。

分人とは何か、は私の拙い文章で説明するより、「私とは何か」を読んで欲しいと思います。

環境や時間帯による分人化

本書を読んでいると基本的に「人」に対しての分人化について書かれていますが、私は「環境」によっての分人化をしているのかなぁ、と感じています。「職場」とか「居酒屋」とか、「運転中」とか「スポーツ中」とか。

「職場」にいる私はかなり淡泊で、淡々と作業しています。必要なコミュニケーションしかとらない。でも飲み会では相手は一緒なのに、くだらない話を永遠としている。そんな私。

クルマ運転中はちょっとピリピリしています。でもスポーツ、特にバレーをしているときはイキイキしている。そんな自分の印象を持っています。

さらに、「時間帯」によって変わる自分も分人化なのでは、という考え。朝のポジティブな感覚と夜中の黒い塊に覆われたような感覚。
逆に朝が憂鬱な人もいるかと思います。それは単に疲れとか眠気とかではなく、分人化している自分がいるという考えの方がしっくりきます。

考えを言語化することで開ける視界

分人という考え方は正解を示している訳ではありません。あくまでも、こうした視点でモノゴトを見てみるのはどうか?という問いかけです。人によっては分人という概念に救われる人もいるかもしれませんが、それが目的ではない。

しかし分人という考え方が言語化されたことによって今までフワフワとボンヤリしていた"自分"というものがクリアになった、という感覚があります。我ながら抽象的過ぎると感じますが、文学とはそういうもの。「分人」について考えてみませんか?

書評というより読書感想文みたいな文章になりました。非常に読み応えのある本なので、「分人」という考え方に興味を持った方は是非読んでみてください。

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